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「著作権」は譲渡可否で2つに分類すると理解しやすい
「著作権」は著作物が創作された瞬間、それを創作した者(=著作者)に自動的に付与されます。作品を生み出したタイミングで自動的に獲得される著作権には、その著作物のハート部分にフォーカスした「著作者人格権」とその著作物が生み出し得る財産部分をコントールし保護できる「著作権(財産権)」の2つがあります(大別するとこのように2分類されることが多いです)。
前者は著作物の創作者からの切り離しができず、後者は創作者から切り離しが可能で、売買や譲渡によって権利移行することも珍しくありません。画像で言うと、左のピンク色の領域は著作権者(創作者)の側に残り続け、右の黄色い部分については取引や譲渡などで移動し得るということになります。なお、右側の「著作権(財産権)」については、概念や意味領域をハッキリさせるため「著作財産権」と表現されるケースもあります。
ビジネス場面で重要になってくるのは、「その著作物を誰が所有するのか?」ということです。このため、その著作物の所有権(知的財産権)と同時に取引されることの多い「著作物の財産部分の権利」については、それを買い取った者にとって著作物の全てを包括している権利のように映ります。お金を払い終えて所有権(知的財産権)が移行すると、著作物に関する全てが手に入ったとついつい勘違いしてしまうことが多くあるのです。
しかし、実際は「著作物のハート部分(著作者人格権)」は金銭であれ相続であれ…何があっても絶対に著作者から第三者に権利移行し得ないものと最初から決まっています(これを「一身専属性」と言います)。「著作物の財産部分の権利」を手にできたとしても、その著作物のハート部分をコントロールする権利までは入手できないという点が非常に重要になります。
仮に「著作財産権」を取得した側が著作者の意に反する形に著作物を歪めてしまったり、その著作者の名誉を損なうような運用をしてしまうと、たとえ金銭の受け渡しが完了していたとしても創作者(著作者)から是正を求められることがあります。ケースによっては是正だけではなく、損害賠償請求に至ることも十分に考えられます。
「お金を払って著作権を買い取っているのだから…」は通じない
著作者人格権侵害という形で訴えられた側は「お金を払って著作物を買い取ったのだから…」と主張するかもしれません。ですが、お金によって移動した所有権(知的財産権)中に含めれていた著作権というのは、「財産的収益性を管理保護する著作権」に過ぎません(先のイラストで言うと、右の黄色いエリアの全て、もしくは一定領域に関する権利ということになります)。
訴えられているのは、その創作物の作品としての在り方についてのことであり(つまりイラストで言うところの左側)、著作物が著作者の意に反する形で歪められていれば、創作者に帰属し続けている「著作者人格権の侵害」に当たります。
お金を払ってその著作物が自分のものになった(所有権が自分に移った)と思っていた側からすれば何とも「寝耳に水」な話かもしれませんが、これは寝る前に自分が何に対する権利に対してお金を払ったのかを正しく理解していなかっただけということになります。
誠に残念な話ではありますが、自分が創り上げたものではない限り、それを買い上げた者が取得できるのは「その著作物の所有権(知的財産権)」と「その著作物の収益性(財産部分)を運用管理する権利」までです。その著作物の活用場面においては、「創作者の意に反しない範囲内の運用」という…ある種のモラル制限が加わることを理解しておかなければなりません。
ということで、「当コラムでお伝えしたいことの核となる部分」を先に頭出しという形でご紹介しました。上述させていただいた考え方に納得できる、納得できない、それぞれお立場はおありだと思います。事実関係を理解するには、少し情報が不足していると思いますので、ここからは「著作権の各支分権」について「著作権法の各条文」も示しつつご紹介させていただきます(法律の条文は長いものもあるため、ご覧になられる場合は + をクリックしてご参照ください。蛇腹式に開きます)。
「自分の目で著作権の条文を確かめて考えたい!」という方にはわかりやすいコラムになると思いますので、ゆっくりとご覧ください。
著作権(財産権)の支分権(11種類)
一般的に「著作権」と言われるとき、その内容が指しているものはその著作物を自由に扱える権利(あるいは無断で扱われないように保護する権利)のことだと思います。「複製」の copy が中心概念としてあるため、英語ではこれを「copyright」と表現します。Webサイトなどでよく目にするマーク「🄫」はcopyrighの頭文字を取ったもので、著作権で守られている著作物であることを示しているというわけです。
日本では、著作物(創作物)を保護し活用できるという財産性を捉えた部分を「著作権(財産権)」と規定しています。この著作権(財産権)は、著作権法の「著作権法第21条~第28条」に記載されており、各支分権の11種類について個別に条項を立てて説明しています。私たちが普段口にする「著作権」という言葉は基本的にこの部分のことなので、これが取引などにより譲渡され得るものだと捉えておくと良いでしょう。
著作財産権(広義の著作権) 11種の権利内容
著作権法に規定されている内容は、やはり法律関連の説明であるため非常にとっつきにくいです。少しでも消化しやすいように、当サイトではイメージ画像を駆使しつつご紹介してまいります。
筆者の側で理解した部分をご紹介していますが、正確な条文も下に掲載していますので、適宜確認しながら読み進めていただければと思います。
①「複製権」とは?【第21条】
著作物を印刷や複写、録音や録画などの手段を用いて複製する権利のことで、この権利が譲渡されていない状況下ではその著作物を創作した者がこの権利を占有します。
※このように↑ 蛇腹式に各条文の正確な文言をご確認いただけます(+-部分のクリックで開閉しますが、長い条文も多いためデフォルトでは閉じています)。
②「上演権」「演奏権」とは?【第22条】
演劇を上演したり、音楽を演奏したり、その録音物を再生したりする権利のことです。ちなみに、公衆に対してCDやDVDを再生する行為もここに含まれます。
③「上映権」とは?【第22条の2】
映画や動画、写真などの著作物をスクリーンなどを通して公に上映する権利です。
④「公衆送信権」「伝達権」とは?【第23条】
テレビ、ラジオ、インターネットなどを介して著作物を公衆に対して送信する権利のことです。インターネットに関しては、アップロード段階でこの権利を行使したことになります。権利を持っていない者がこれをすると著作権侵害ということです。
⑤「口述権」とは?【第24条】
言語媒体によって形成されている小説などの著作物を、口述や朗読などによって公に対して伝達する権利(録音したものを再生するケースも含まれる)のことになります。
たとえばWeb用の記事原稿を制作して著作権ごと譲渡したのであれば、譲受人は口述などでその原稿内容を公に伝達しても良いということになりますね。
⑥「展示権」とは?【第25条】
絵画などの美術品や未発行の写真などの著作物を公に対して展示する権利です。仮に絵画を著作権を含めて販売(売却)したなら、買い取った側はそれを第三者の目に触れる位置に展示することも可能になるということです。
⑦「頒布権(はんぷけん)」とは?【第26条】
「映画」という著作物に関して、複製物を通して公に対して広く行き渡らせること(譲渡したり、貸与したりすること)ができる権利です。
⑧「譲渡権」とは?【第26条の2】
「映画以外の著作物」の原作品や複製品を公に対して譲渡する権利になります。こちらは映画以外の場合の「譲渡」についての権利を規定しているものなので、映画の場合と映画以外の場合には分けて規定する事情があると判断できます。詳しくは以下の条文を覗いてみてください。
⑨「貸与権」とは?【第26条の3】
映画以外の著作物を「複製品の貸与」という形によって公に提供する権利のことになります。
⑩「翻訳権」「翻案権」とは?【第27条】
既存の著作物の翻訳であったり、既に実在する著作物を元にして新たな著作物(二次的著作物)の創作を管理する権利のことです。この権利の確保により原作品を元にした二次的著作物が生み出せるため、原作品に対する創作的変更(調整)も可能になります。著作権法第28条と併せて「著作権譲渡契約」場面で重要な中身になりますので、後に別見出しを立てて解説を加えます。
⑪「二次的著作物の利用に関する原著作者の権利」とは?【第28条】
原作品の翻訳や編曲、脚色や変形、映画化などによって派生した別の創作物(=二次的著作物)に関して、二次的著作物の創作者にも原著作物の創作者にも同様に上述のような著作権が保護されるという権利です。原作品の創作者と二次的著作物の創作者が同じなら何の問題もありませんが、異なっている場合は「どのように排他的に収益性を確保するか?」が問題になります。このため、この権利の譲渡は非常に重要な意味を持ちます。
著作者人格権の支分権(3種類)+1
「著作者の人格?」と言うと少しわかりにくいだろうと思います。意味合いとしては、「その作品が持っている特性(個性)」と考えておくと良いでしょう。その作品をヒトとして擬人化して捉えるなら、「著作物の人格」といったニュアンスになりますね。
たとえば記事の原稿であれば、文章制作の際に発揮された執筆者のセンスであったり判断力、選ばれた言葉や論理的な文脈などのことです。つまり、創作した者がその作品に封じ込めた思いのようなものなので、当コラムでは「著作物のハート部分」という表現でご紹介しています。
著作者人格権の具体的な内容
著作権法に沿って正しく分類すると、著作者人格権は「公表権」「氏名表示権」「同一性保持権」の3つの支分権で構成されています。また、法体系上は正式に条項を立てて著作者人格権と明記されていないのの、実質的に「第4の著作者人格権」と認識されているものに「名誉声望保持権」というものもあります。
そしてくどいようですが、上記3つの権利は譲渡や相続などができず、一身専属的に創作者のみに帰属し続けます。
「公表権」と「氏名表示権」と「同一性保持権」の3つを合わせたもののこと(著作物に内在するハート部分を保護する権利)
※作品の創作者に帰属する一身専属的に奪われ得ない権利です。
著作者人格権 3種の権利+1の内容
「著作者人格権」の具体的な中身について見ていきましょう。基本的には3つの権利によって構成されているものですが、これに侵害規定の1つを加えて意識しておいた方が判断を誤りにくくなると思います。
①「公表権」とは?【第18条】
公表権とは、まだ発表されていない著作物について、どのような形で公表するか、どのタイミングで公表するかを決定する権利です。たとえば自分が小説家であった時に、ドラマ化の話も持ち上がっていた際、先にドラマ放映、その後に小説の出版など、著作者の希望する形で著作物公表のあり方を決定する権利です。
②「氏名表示権」とは?【第19条】
氏名表示権とは、どの名前で世の中に著作物を公表するかを決定できる権利のことです。ライターの場合であれば、実名でなくペンネームを希望するようなケースも多いですが、このような著作者の氏名表示のあり方を決定する権利となります。また、希望であれば著作者名を表示しないという形を取ることも自由です。
③「同一性保持権」とは?【第20条】
同一性保持権とは、著作物の内容やタイトルについて、著作者本人の意思に沿う形でその作品を留めておける権利のことです。ただし、著作物の性質や利用目的によっては「止むを得ないレベルの改変」は認められるケースもあり、Web記事の原稿などはこれを拠り所に微調整がなされます。
こちらの「同一性保持権」は、よく整理して考えると譲渡可能な方の著作権(財産権)の「翻案権(第27条)」とバッティングします。著作権の譲受人は翻案権の確保により二次的著作物を創作するための改変が可能になるはずですが、原著作者に帰属する「同一性保持権」がこれを妨害するというわけです。
どちらが有効になるのかについては、「二次的著作物を創り出すため」という意図であれば、その目的に沿った改変は「止むを得ないレベルの改変だ」と判断されることが多いようです。
④「名誉声望保持権」とは?【第113条の7】
こちらは「著作者人格権のみなし規定」という範疇で扱われているもので、実質的に「第4の著作者人格権」と認識されているもののようです(著作権法の建て付けとしては著作者人格権は3つです)。
著作物を扱う際、著作者の「名誉」や「声望」を害するような利用に至ると著作者人格権の侵害に当たるという規定です。
「著作者人格権侵害」になるかは、著作物の性質や利用目的次第…
上述の「著作者人格権」については、厳格に全てがガードされているというより、ケースバイケースで考えられることの方が多いようです。たとえば、「Web記事制作(外注)」の場合であれば、その原稿(記事)を利用する際に実務上手を加えないと不都合が生じるようなケースも出てくるでしょう(同一性保持権に抵触する)。
改変であっても、それによって創作者(執筆者)の意図や思いを踏みにじる恐れのない微細なものであったり、不自然な用語や表現などを公正な慣行に合わせて部分的に調整(校閲)するような場合には、Web記事のケースにおいては通常問題ないと判断されるはずです。執筆者も人間ですので、誤用やタイピングミスなども当然起こり得ます。この訂正に対して「同一性保持」が主張されるとは思えません。ですので、「同一性保持」に関して言えば「その創作者の意に反する無断の大幅改変が問題になる」と捉えておくと良いでしょう。
なお、筆者は法律の専門家「弁護士」ではないので、正確なルールや判例までは把握しておりません。厳密なものが重要になる場面であれば、どうぞ弁護士事務所へご相談ください。筆者が筆者なりに調べて理解した範囲を鵜呑みにされて何か問題が生じましても、こちらとしては責任を終えませんので宜しくお願いします。
永彩舎の「著作者人格権」に対する考え方
ここまでで「著作権」と「著作者人格権」の法的ポイントを私なりに解釈してお伝えしました。Webライティングの制作依頼に携わる担当者さまには、次に「永彩舎が著作者人格権について実務レベルでとう考えているのか」についてご案内いたします。
もしも永彩舎へ記事制作をオーダーいただくのであれば、こういう点は気にしていただかなくても問題ないが、こういう部分には配慮いただきたいといったご説明です。著作者人格権そのものの解説ではありませんので、永彩舎への記事制作を考えておられない場合は飛ばして「著作権法第27条と第28条を「著作権譲渡契約」で明示的に記すワケ」の項へお進みいただければと思います。
永彩舎との取引①:「公表権」はおそらく大きな問題にならない
「公表権」については、永彩舎納品の記事で特に大きな問題になることはないだろうと判断しています。どのような形態、どのような順序で公表されるかについてのものですので、こちらで何か申し上げることはないはずです。
ただし、「著作権が譲渡されるタイミング」については、その作業報酬(代金)が当方の銀行口座に着金したときになることをご理解ください(クラウドソーシングを経由する場合は、検収完了ボタンを押下いただき当方への報酬が確定したときになります)。
つまり、著作物を自分のものとして公表(運用)できるタイミングは、著作権譲渡の完了後であるため、直接取引の場合で「後払い」のケースだと、お支払い完了までの間はご利用をお待ちいただくのが基本となります。「検収完了」とチャット経由でお伝えいただいても、場合によりご利用開始は半月後くらいになることも十分に考えられます。
これは「お支払日」や「お支払い期限」の方で調整ができますので、ご都合に合わせてご設定いただければと思います。早く記事を活用したいという場合なら、オーダー単位で都度請求書を発行させていただきますのでご希望をお伝えください。
永彩舎との取引②:「氏名表示」部分についてはやや過敏
「氏名表示権」に関しては、これまで非常に不快な思いをさせられた経験があります。納品記事に関して、無記名記事(氏名やペンネームを明記しない記事)になるのは致し方ないと判断しておりますが、「別名表示」については絶対に認めることはございません(筆者が書いた原稿であるにもかかわらず、別の方が書いたように表示することを筆者が許容することはありません)。
当ホームページのトップページの方にご紹介させていただいている「エネチェンジ掲載の記事(水道料金、食費関連、引っ越し関連のコラム)」については、誠に残念なことに私が執筆したものであるにもかかわらず当時のクライアントのペンネームがライター名として表示されています(何の断りもない別名表示なので、明確に筆者の著作者人格権が侵害されています)。
クラウドワークス経由で「著作者人格権不行使特約」を前提とした取引になっていたため、これを現在の私の立場から当時のクライアントに是正するように求めることはできません。このため、権利侵害であることを含めて実績公開させていただいておりますが、今でもこのクライアントの不道徳感に対しては不快な思いが募ります。
永彩舎では「ペンネーム表示割引」で氏名表示権の意義を推進
上述のような過去があるため、永彩舎では「ペンネーム表示割引」という前向きな割引制度を導入しております。本来、このようなものを設定せずとも創作者(執筆者)の側で「この名前で掲載してください」と言えるのが「氏名表示権」ですが、現在のWeb記事の慣行とは大きなズレがございますので、何歩も譲歩しつつ「氏名表示の意義」をストレスなく浸透させたいと考えた次第です。
記事制作費の文字単価を多少割り引かせていただきますので、ライター名表示に特にこだわりがない場合は前向きに「ペンネーム表示割引」をご活用ください。
永彩舎との取引③:「同一性保持」へのこだわりは少ない
「納品させていただいた原稿をそのままの形に保つ」という同一性保持については、永彩舎の場合深いこだわりはございません。仮に300文字から400の字程度のパラグラフ全体を見出し丸ごとカットいただいても、それがWebサイト運営者さま側の活用したい形であるのなら特に不服はございません。
また、入稿前の最終チェック段階で専門家目線からの調整を加えていただく分にはむしろ歓迎いたします。手掛けている記事の大部分において筆者は専門家と言えるような資格までは有しておりませんので、「専門家視点からの最適化」に対しては逆に感謝申し上げたいくらいです(特に医療分野などでは、これをされずに入稿される方が社会モラル上問題になります)。
ただし、永彩舎で手掛けた記事が「痕跡なく変更されてしまうこと」についてはご遠慮いただきたい次第です。あくまでも、「こちらで執筆を手掛けたもの」と紹介しても差し支えない程度の改変ということで自由にご調整いただければと思います。
ということで、少しくどくなってしまいますが、永彩舎へ記事制作をご依頼される際は「別名表示にはしない」という点にお気を付けいただき、正当な形で納品記事をご活用ください。ライターの性格にもよりますが、おそらく一般的には時間をかけて制作した記事ほど、手元を離れた後もその動向が気になるはずです。個人的には、時折Google検索順位などを見ながら遠巻きで自己満足しているくらいですので、モラルに反するような活用だけはお控えください。それさえ気を付けていただければ、永彩舎の記事は訪問者の増加に貢献してくれるはずです。
著作権法第27条と第28条を「著作権譲渡契約」で明示的に記すワケ
著作権法第27条と第28条は「著作権譲渡契約」において非常に重要です。かなり簡略化してポイントだけを中心に切り出すと、「著作権譲渡契約」の書面においては、以下のような文言が記載されていることが多いです。
甲〇〇は乙□□に対して、著作権を含む知的財産権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む)を、金□□□円を対価として譲渡する
このような文章を見ると、「どうして27条と28条を含むと書いてあるの?」と気になりませんか?私はとっても気になりました。なので調べました。結果、納得できましたので、筆者が調べて理解した部分をここで共有しておきます。
翻訳権・翻案権が放棄されていないと、二次的著作物の創作が不可
まず、「A」という著作物(原作品)を元に「A’」という二次的著作物を生み出せるようにする(あるいは生み出されないように保護する)のが著作権法第27条の「翻訳権・翻案権」です。ここまでは簡単です。そして、この権利を行使して創り出された二次的著作物「A’」に関しては、「A」の原創作者にも「A’」の二次的書作物の創作者にも自動的に同じ著作権が発生するということが著作権法第28条で規定されています。
このため、著作権譲渡契約などで著作権を買い取る際は、これら両方の権利を譲渡(放棄)することを明確にしておいてもらわないと、「A」を著作権を含めて買い上げても「A」を元にした別の「A’」が創り出せないし、「A’」を生み出そうとする創作活動において微細な変更や調整さえ加えられないということになります。
では、なぜ他の著作権(財産権)については、個別に明記するようになっていないのかと言うと、そもそも著作権とは「copyright」と言われるくらい、複製を可能にする権利であることが初めから明白だからです。つまり、同一物の複製(コピー)権に関する譲渡取引が著作権譲渡取引の基本としてあるので、少し性質の異なる「翻案(二次的著作物の創作権利)」については、はっきり明示的に書き記さないと不明瞭になってしまうということなのです。
これで、この著作物のコピーや商用的利用をお始めいただけますよ。
えっ…と、、、この著作物を元にして別の創作物を作ってもいいんですよね??えっ、ダメなんですか!?
という具合です。その場でこのような「すり合わせ」が行なわれれば事なきを得ますが、後々になってこの話が持ち上がり、それぞれ違った解釈をしていたとなれば厄介ですよね。そのため、予めはっきりさせておくというわけです。
第28条も抑えないと、二次的著作物の著作権が原著作者に発生
また、仮に「翻案権」の譲渡が著作権譲渡契約書の中でしっかりと記載されていても、第28条の「原著作者には二次的著作物の著作権が自動発生する」という点についても放棄してもらわないと、「A’」が女性によって創作された段階で原著作物「A」の創作者(男性)に「A’」に関する著作権が発生してしまい、「A’」の創作者(女性)は著作物の収益性を排他的に確保できないということになります(何のために「A」についての著作権を買い取ったのか…ということになり兼ねません)。
このようなことで、「著作権譲渡契約」の際には契約書の中で第27条と第28条がどう扱われるのかを明示的に書き綴る必要があるわけです。実のところ、著作権権法自体の中にも「著作権譲渡」の際はこの27条と28条をはっきりと明記するように規定されています。
著作権法 第六十一条【著作権の譲渡】
- 著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる。
- 著作権を譲渡する契約において、第二十七条又は第二十八条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。
わかるように明記しておかないと、27条と28条の権利については著作権を譲渡した人の元に留保されたと推定するとありますね。
クラウドワークスの規約の中でも、著作権譲渡関連の箇所にこの条項が記載してあります。気になっておられた方は「なるほど、だからか書いてあったのね…」とご理解いただけたのではないでしょうか(あまりこのような箇所を見ている人はいないかもしれませんが…)。
また、第27条の「翻案権」は、著作者人格権の方で少し触れたとおり第20条の「同一性保持権」とバッティングするという重要なポイントもございます。「二次的著作物を創作する際には、同一性が保持できなくなるの止む無し…」という捉え方が一般的ですが、逆にこの「翻案権」の譲渡が明確になっていないと「同一性保持権」を主張された際に著作物の譲受人側は何も言い返せなくなりますね。
このような点でも第27条と第28条はやはり重要になるため、「著作権譲渡契約」においてこれらを明示的に書き記すのはもはや当たり前になっているというわけです。
高品質な作品ほど、取り扱いには十分な配慮を♪
当コラムでは、著作権の全体像を「譲渡可否」という観点から整理し、「著作権(財産権)」の11種の権利と「著作者人格権」の3種の権利についてご紹介しました。また、永彩舎の「著作者人格権」に対する考え方だけでなく、著作権譲渡契約の場面で重要になってくる第27条と第28条についてもご案内しました。
これ以外にも、当初はクラウドソーシングでの著作者人格権の取り扱い(著作者人格権不行使特約など)にも触れようと考えておりましたが、想像以上に記事が長くなってしまい断念いたしました(また、別記事対応させていただきます)。
では、改めまして当記事のポイントを整理しておきましょう。
- 著作権には、財産部分の「著作権(財産権)」と著作物のハート部分を守る「著作者人格権」がある
- 著作権の財産部分を管理する権利は「11種類の支分権」によって構成され、著作者人格権は「3種類の支分権+1」で認識されている
- 著作者人格権は、その作品を生み出した者(著作者)から切り離すことができず、譲渡や相続などが不可能な権利である
- 著作権(財産権)の方は、売買や取引で譲渡や相続などが可能であるが、これを得てもその著作物の全てを掌握できるわけではない
- 著作権の譲受人は、著作物が完全に自分に帰属したと思わず節度を持って取り扱わないと訴えられる可能性さえある
- 著作権譲渡契約では、第27条と第28条を明示的に書き記す必要がある(でないと、譲受人が後で困ることになる)
- 著作者人格権の一つ「同一性保持権(第20条)」と著作権(財産権)の一つ「翻案権(第27条)」は内容的にバッティングするが、二次的著作物を制作するという目的に沿った翻案であるなら、ある程度の改変は止む無しと判断されるのが一般的である
- 「同一性保持」については、ガチガチに固められているものというよりも、著作物の性質や運用場面などによって柔軟に解釈され得るものである
少しボリュームのある記事となったこともあり、振り返るとポイントがたくさん出てきましたね。クラウドソーシングを経由した「Webライティング」のようなケースだと、特に駆け出しのライターはこのような細かなことを把握していないと思いますが、本来は自分の権利関係について正しく把握しておくべきです。
納品済みの記事がGoogleに高く評価されるようになってから気づいても、「あの時のあの契約は云々…」と、知識の無さで「泣き寝入り」となってしまうことも考えられます…(たとえば、著作者人格権はあるはずなのに、不行使特約で封印されてしまっているなど…)。
逆に言うと、高品質の記事をコンスタントに提供しているライターであれば、このあたりの権利関係についてある程度正しく把握できていることが想像されます。「自サイトを立ててクラウドソーシングを経由しない方法をメインにし、著作者人格権不行使特約のような不条理なものを退ける」という筆者のような立場もあれば、「著作者人格権であっても実質剥奪されるという角度でクラウドソーシングを捉え、別名表示されようと気にならない程度のさじ加減でWebライティングに対応する」というケースもあるでしょう。
どちらが正解というわけでもございませんが、「事実関係を正しく捉えておくこと」は、「相手への感謝を忘れないこと」と同じくらい大切だと筆者は考えます。世の中には色んな方がおられますので、「感謝」と「寛容」に「権利関係の知識」を加え、リスク管理をしながら歩むのがこの時代の正しい生き方なのではないでしょうか。当記事をうまくご活用いただき、一つでも気持ちの良い取引が広がっていけばと考えています。最後までご覧いただき、ありがとうございました。